神奈川大学人文学研究叢書 50
A5判 242ページ 上製
定価 3000円+税
ISBN978-4-7872-9275-9 C0095
在庫あり
書店発売日 2024年02月28日 登録日 2023年12月25日
人間と動物を対立させる価値観を退け、ポストヒューマンやクィアの思想を取り込んで、動物表象に潜むジェンダー力学を浮き彫りにする。動物や人間、精霊やウイルスをめぐる物語に分け入り、マルチスピーシーズとジェンダーの視野で作品の可能性を浮上させる。
民話やおとぎ話の動物と人間の関係、寓話やファンタジーに登場する精霊、狩猟と男性性、冒険物語を脱構築する動物――それらを文学や芸術はどのように描いてきたのか。大江健三郎、多和田葉子、松浦理英子たちの現代の「動物作品」は何を表象しているのか。
動物が人間よりも劣位に置かれる文化・構造を踏まえ、人間中心の視点を脱し、複数種(マルチスピーシーズ)の絡まり合いから作品や表象を読み解く。これに加えて、女性が男性から差別される非対称性に基づき、ジェンダーの視点も重ね合わせて多角的に分析する。
人間と動物を対立させる価値観を退け、エコクリティシズムやポストヒューマンの思想の潮流に棹さしながら、動物表象に潜む力学を浮き彫りにする。動物や人間、精霊をめぐる物語の森に分け入り、マルチスピーシーズやジェンダーなどの複合的な視野で作品の可能性を浮上させる新たなリーディングの地平。
序 文 マルチスピーシーズ物語の森のマッピング 村井まや子/熊谷謙介
第1部 記された〈動物〉と〈性〉
第1章 共苦による連帯とその失敗――大江健三郎「泳ぐ男」における性差と動物表象の関係を手がかりに 菊間晴子
1 大江作品にみられる動物表象
2 想像力の挫折の物語としての「泳ぐ男」
3 女性の犠牲者に対するまなざし
4 動物としての男性
5 非‐動物としての女性
6 共苦から生まれる動物との連帯
7 共苦する想像力、その限界と暴力性
8 「わからなさ」の先の共同性
第2章 多和田葉子の動物演劇の試み――『夜ヒカル鶴の仮面』から『動物たちのバベル』へ 小松原由理
1 両テクストにおける動物の役割
2 言葉遊びから始まる――人間と動物の「重なり」
3 「穴アキ(ルビ:アナーキー)演劇」として?――動物演劇のアンガージュマン
第3章 皮膚感覚的快楽の果てをめざして 熊谷謙介
――松浦理英子『犬身』論
1 熱い触れ合い――『犬身』前後
2 人間―犬―狼の異種間コミュニケーション
3 スキンシップと性的快楽のあわい
第4章 マルチスピーシーズ・フェアリーテール研究序説 村井まや子
1 ATUインデックスと人間中心的バイアス
2 「マルチスピーシーズ・フェアリーテール」の分類法
3 マルチスピーシーズ・フェアリーテール・ライブラリー
第2部 多様な種の文化表象へ
第5章 銃を持つダイアナ――二十世紀転換期アメリカにおける狩猟とジェンダーをめぐる言説 信岡朝子
1 狩猟する女性の「発見」
2 アメリカの祖先としてのハンター
3 文明的な狩猟の創造
4 安全装置としての女性ハンター
5 象を撃つダイアナ――デリア・エイクリーの狩猟記
6 男性らしい(manly)白人女性の自意識
第6章 オーストラリア児童文学におけるアボリジナル文化――精霊の表象を手がかりに 鈴木宏枝
1 パトリシア・ライトソンの試み
2 スー・マクファーソン――共生と抱擁
第7章 モクモク村のQちゃん――「野性」と「男性性」のクィア・リーディング 菅沼勝彦
1 『モクモク村のけんちゃん』
2 セジウィックと「クィア・パフォーマティヴィティ」
3 けんちゃんと魔王の男性性
4 モクモク村のQちゃん
5 「クィア・パフォーマティヴィティ」と「フェロックス」の実践
第8章 ワクチンとしての物語――章夢奇のドキュメンタリー作品における女性の語りを手がかりに 秋山珠子
1 幼女たち
2 少女たち
3 老女たち
【お詫びと訂正】
本書に以下の誤りがありました。
24ページの注(3)
【誤】『動物の権利』(一九七五年)という書名のとおり動物の権利を主張する
【正】『動物の解放』(一九七五年)という書名のとおり動物の解放を主張する
ご指摘くださった方にお礼を申し上げるとともに、読者のみなさまにご迷惑をおかけしたことをお詫びし訂正します。
熊谷謙介/青弓社編集部 2024年4月8日
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