神奈川大学人文学研究叢書 47
鈴木 宏枝(著)
A5判 240ページ 上製
定価 3000円+税
ISBN978-4-7872-9265-0 C0095
在庫あり
書店発売日 2022年02月28日 登録日 2021年12月15日
奴隷制度や人種差別などの苦難の歴史を抱えながら、抑圧された環境下でも協働して人間らしく生き延びようとした強さに光を当てることで、現代を生きる子どもに新たな視点と励ましを与えるアフリカン・アメリカン児童文学がもつポテンシャルを描き出す。
拉致、奴隷化、尊厳の剥奪、隔離、共同体内での分裂など、複雑で艱難辛苦の連続だった歴史をもつアフリカン・アメリカンが書く児童文学は、多様性の希求やルーツの受容、他者との連接を目指してきた。社会的に「見えない」子どもの感情を可視化し、抑圧された環境下でも協働して人間らしく生き延びようとした集団の強さを描く作品は、あらゆる子どもへの「励まし」の役割も担う。
1920年代にアフリカン・アメリカンの子どもへの「励まし」の土台を作った雑誌「ブラウニーズ・ブック」、キング牧師の思想を継いでアメリカの人間像の多様性を訴えた作家ミルドレッド・テイラーの「ローガン・サーガ」、奴隷制時代の過去の記憶と現代を生きる子どものサバイバルを結び付けて描いたヴァジニア・ハミルトンの『偉大なるM・C』『マイゴーストアンクル』『ジュニア・ブラウンの惑星』、逃亡奴隷の支援ネットワーク「地下鉄道」の「車掌」を務めたハリエット・タブマンの2つの伝記、ハーレム地区の複雑な人間関係と利害を超えた結び付きを描いたウォルター・ディーン・マイヤーズの『ニューヨーク145番通り』ほか、多数の作品を取り上げてアフリカン・アメリカン児童文学の軌跡をたどる。
奴隷制度や人種差別の苦痛を描きながらも、それを「生き延びた」ことの強さにあえて焦点を当て、現代を生きる子どもに新たな視点と励ます力を与えるアフリカン・アメリカン児童文学がもつポテンシャルを描き出す。
序 章 アフリカン・アメリカン児童文学と「励まし」
1 アフリカン・アメリカンとは誰か
2 アフリカン・アメリカン児童文学とは何か
3 「励まし」としてのアフリカン・アメリカン児童文学
4 本書の構成
第1章 アメリカのなかの他者
1 『アンクル・トムの小屋』にみる隷従
2 『アンクル・リーマスの話』にみるミンストレル・ショー
3 アメリカ児童文学の黒人
第2章 アフリカン・アメリカン児童文学の輪郭
1 アフリカン・アメリカン児童文学の歩み
2 自伝や伝記の意義
第3章 「ブラウニーズ・ブック」の意義
1 W・E・B・デュボイスの教育観とハーレム・ルネサンス
2 アメリカの子ども像の多様化に向けて
3 アフリカへの親近感――「中間航路」の逆走
第4章 「わたしには夢がある」への応答
1 人種隔離の手枷と人種差別の足枷――『とどろく雷よ、私の叫びをきけ』
2 われらの白人の兄弟――『ミシシッピの橋』
3 アメリカの夢に深く根差した夢――『土地』
第5章 歴史の受容
1 墓石による防御――『偉大なるM・C』
2 虐待と病の受容――『マイゴーストアンクル』
3 神話の創造――『プリティ・パールのふしぎな冒険』
4 南部の鎮魂――『犂を打ち鳴らす』
第6章 ネットワークの形成
1 奴隷逃亡のネットワーク――『ハリエット・タブマン――地下鉄道の車掌』
2 ストリート・チルドレンの共同体――『ジュニア・ブラウンの惑星』
3 ハーレム地区の共助と新しい男らしさ――『ニューヨーク145番通り』
第7章 言葉の力
1 アフリカの言葉に宿る力――「すべて神の子には翼がある」
2 複数の言葉から生まれる空間――『次女――ある奴隷少女の話』
3 詩作でつながる若者――『ブロンクス・マスカレード』
おわりに――アフリカン・アメリカン児童文学というプラットフォーム:子どもを跳ばせる力
引用文献一覧
コレッタ・スコット・キング賞受賞作一覧
初出一覧
あとがき
【お詫びと訂正】
本書に以下の誤りがありました。
99ページ:13行目
【誤】二十三号
【正】二十四号
107ページ:1行目
【誤】(31)Ibid., p.154.
【正】(31)Ibid., p.155.
201ページ:7行目
【誤】一二小節AB
【正】12小節AAB
224ページ:1行目
【誤】中野伶奈
【正】中野怜奈
236ページ:2行目から4行目
【誤】非常勤などを経て最初に専任として着任した大学で働くうちに、やはり学位を取ろうと思い、二〇〇三年ごろに一歳の娘を連れて白百合女子大学の白井澄子先生にお目にかかりにいき、相談に乗っていただきました。
【正】二〇〇三年ごろに一歳の娘を連れて白百合女子大学の白井澄子先生にお目にかかりにいき、その後、最初に専任として着任した大学で働くうちに、やはり学位を取ろうと思い、再び相談に乗っていただきました。
読者のみなさまにご迷惑をおかけしたことを、心からお詫びします。
鈴木宏枝/青弓社編集部 2022年3月18日
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