B5判 168ページ 並製
定価 3600円+税
ISBN978-4-7872-3430-8 C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月 2018年01月 書店発売日 2018年01月31日 登録日 2018年01月05日
「読売新聞」 朝刊 |
文豪ゲーテがいち早くその価値に気づき支援を惜しまなかった蝋製医学模型標本「ムラージュ」。博物館や教室の奥で忘れられていたムラージュに光をあて、その歴史を丹念に掘り起こす。ユーモラスな寄生虫や愛らしいキノコも織り込んだ第一級史料。フルカラー。
文豪ゲーテがいち早くその価値に気づいて支援を惜しまなかった蝋製医学模型標本「ムラージュ」。刻々と変化する皮膚疾患や珍しい症例を患部から石膏で直接かたどって作った現物大の蝋型にリアルな植毛や彩色を施した三次元のムラージュは、近代医学で重要な役割を果たした。
日本では皮膚科学者・土肥慶蔵と同郷の画家・伊藤有を起点として「ムラージュ師」の系譜が形成された。しかし、管理の難しさと写真技術の発展につれて和製ムラージュは大量廃棄され、現存するものにも修復の見込みはない。
博物館や教室の奥で忘れられていたムラージュに光をあて、その歴史を丹念に調査した研究の集大成。職人たちの人生はもちろん、ユーモラスな寄生虫や愛らしいキノコも織り込んだ第一級史料。蝋という素材ならではの魅力と迫力をフルカラー写真で紹介する。
はじめに かつて存在したムラージュ工房の風景
第1章 元祖皮膚科コンビ、土肥慶蔵と伊藤有 東京大学医学部皮膚科学教室・本郷
1 日本のムラージュ師の祖・伊藤有のムラージュ
2 土肥、ウィーンでムラージュに出会う
3 土肥と伊藤の同郷コンビ初仕事『日本皮膚病黴毒図譜』原画
4 土肥の腕 再発見された胸像
第2章 私学のムラージュ 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室・信濃町
1 壁掛けスタイルのムラージュ壮観
2 伊藤の最初の弟子・宇野一洋
3 伊藤と宇野が育てた東大二代目ムラージュ師・長安周一
4 土肥の名著『世界黴毒史』と秦佐八郎のサルヴァルサン効果
第3章 ムラージュ展示室と植物標本 北海道大学総合博物館・札幌
1 日本では珍しいムラージュ常設展示室
2 伊藤が後任指名を考えた弟子・南条議雄
3 ムラージュが語る歴史 絶滅した「天然痘」を知る手段
4 日本のムラージュの「父」・伊藤の前歴 植物学者・宮部金吾とのフィールドワーク
第4章 北陸伝播 金沢大学医学記念館
1 土肥章司教授着任時の御仕度 伊藤の銘入りムラージュ
2 金大のムラージュ師・斉藤要三郎 遊び心あふれる横綱の手形
3 山越長七(山越工作所)と眼病模型
第5章 PILZE(ピルツェ) 水虫またはキノコ 北海道大学植物園、東京大学医学図書館ほか
1 キノコと皮膚科
2 土肥の後継者・太田正雄と白癬菌研究
3 大御所サブローと『ぞうさんババール』の意外な結び付き
4 カプセルに入ったキノコ標本 エゾリスが暮らす植物園
第6章 南へ 九州での挑戦 九州大学医学部皮膚科学教室
1 まずは九大ムラージュ師の師匠から 元寇画家・矢田一嘯
2 初代教授・旭憲吉 西日本皮膚科の祖
3 新島伊三郎のムラージュ
4 二代教授・皆見省吾 土肥の『世界黴毒史』ドイツ語訳と先天性梅毒児
第7章 ムラージュの灯、消える 失われた日本の技術 名古屋大学博物館
1 最後の直系ムラージュ師 孤高の人・長谷川兼太郎
2 田村春吉と名古屋へ、そして太田正雄に請われて奉天へ
3 戦後、名古屋での活躍
4 常設棚と企画展「ムラージュ」
第8章 異端の蝋模型師 沼田仁吉 北里研究所・東京大学医科学研究所・目黒寄生虫館
1 沼田の上司・宮島幹之助とツツガムシ病
2 一九一一年開催のドレスデン国際衛生博覧会 ドイツでの沼田の足跡
3 衛生啓蒙活動と感染症関連
4 沼田の晩年 目黒寄生虫館の模型
5 沼田の虫卵模型から ミヤイリガイと「日本住血吸虫」
第9章 ムラージュの未来 ドレスデン・ドイツ衛生博物館
1 ドイツ衛生博物館というユニークな存在
2 黎明期のムラージュを理解し、奨励したドイツ詩人ゲーテ
3 日独ムラージュ研究史の概観と比較
4 DHMDのムラージュと修復技術者ラング氏
エピローグ ドレスデンの空の下で
撮影後記 受苦のポートレート 大西成明
謝辞と補足
主要文献リスト
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