越境する近代 6
兵頭 晶子(著)
A5判 324ページ 上製
定価 3400円+税
ISBN978-4-7872-2032-5 C0320
品切れ・重版未定
奥付の初版発行年月 2008年11月 書店発売日 2008年11月22日 登録日 2010年02月18日
いつから、私たちに狐は憑かなくなったのか。憑かれるという知覚を否定され、精神を病む経験を刻印された心身は、さまざまな監視・排除を受けて医療観察法に囚われていく。民俗や宗教から司法、社会事業までをも貫く人間像の転換を、多くの史料から紡ぎ出す。
はじめに――ある忘却の歴史から
序章 「憑かない心身」からの問い
1 精神病の日本近代
2 狐憑きという視座
3 「精神病とはそもそも何なのか」
4 狐憑きが当たり前だった世界
5 狐が神となる瞬間
6 狐憑きが再定義されるということ
7 「憑かない心身」の考古学へ
第1章 精神医学史はなぜ〈もの憑き〉を語るのか――憑く心身との邂逅
1 精神病の歴史を書くということ
2 金子準二の「日本精神病史」――「精神病観」と「怪異」
3 呉秀三「磯辺偶渉」――神意の発現としての「怪異」
4 「神意」から「心意」へ――精神病史の始点
5 〈もの憑き〉という世界観
第2章 〈もの憑き〉は医の領域に属するか――日本近世の問い
1 〈もの憑き〉という問題
2 医事か否かという問い
3 儒医という自己規定
4 「淫祀」という認識の登場と、新たな対処法
5 日本近世からの問い
第3章 〈もの憑き〉の再定義――病む心身が構築される過程
1 近代精神病学の樹立と〈もの憑き〉
2 〈もの憑き〉の現場から――〈繋がり〉の異変の修復
3 精神病としての再定義――〈存在〉を病むということ
4 〈もの憑き〉と近代社会――「個人」が形成される時代
5 新たな心身への問い
第4章 〈もの憑き〉をめぐる世界観の剥奪――「憑物」問題の成立
1 「憑物筋」と「患者筋」
2 民間治療場をめぐって
3 「精神病者」が見出される場所
4 「患者筋」の発見
5 定住社会への併呑と「憑物筋」
6 民間治療場のゆくえ
第5章 憑く心身か、病む心身か――大本と「変態心理」の相剋
1 〈もの憑き〉への存命の賭け
2 民衆宗教の現場で
3 心のありかをめぐって――精神の再定義と潜在意識
4 「精神病」を癒すこと――精神治療の可能性
5 心の内奥への眼差し――「変態心理」における潜在意識
6 大本の憑霊をめぐる論争――潜在意識という論拠の変質
7 大本の精神鑑定――責任能力と潜在意識
8 不可視の異常へ
第6章 病む心身の主題化――新刑法と精神病者監護法・精神病院法
1 犯罪と病む心身
2 新たな責任概念と精神病学――〈存在〉に固定された危険性
3 「中間者」概念の登場と精神病者監護法の変質
4 入江事件の衝撃――精神病院法への前哨
5 精神病院法をめぐる議論とその実施――司法の外での拘束
6 「第二の入江三郎」の死――永続的な監禁の果てに
7 〈存在〉を封じること
第7章 未然の危険をめぐって――社会問題の「予防」と病む心身
1 「予防」という権力
2 危険の予知
3 危険を未然に防ぐこと――断種・新たな監獄・未発の病
4 非監置病者の危険と収容――監護法を超えて
5 監置の現場から――危険の「予防」と非監置病者の包囲網
6 架空の危険と精神病
終章 精神病の日本近代
1 〈もの憑き〉の世界観と憑く心身
2 病む心身の再定義と「精神」の潮流
3 〈存在〉の時間幅と病む心身の危険性
4 民間治療場の近代
5 医療観察法という結実
6 医療観察法の問題点
7 いま、精神病を語るために
あとがき
索引
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